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私がその時計所有したいと思い続けているあいだ、彼女は事実を語り続けた。

「彼は実際に修理しているのですか? それとも、オールドスターブリッジビレッジ(1830年代のアメリカ、ニューイングランド地方の生活を再現した"生きた博物館”)の人々がバターを作るふりをするように、やっているふりをしてるだけですか?」と私は尋ねた。「いいえ」と彼女は少し顔をしかめた。世界で最も長い歴史を持つ時計メーカーのひとつが、そんなことをするはずはないでしょう、と言うかのように。彼女は、忍耐強く、かつ堪忍袋の緒が切れるかもと感じさせるその笑顔で、ミュージアムにある作品はすべて実際に使用できるのだと教えてくれた。私たちは黙ってエレベーターに乗り、3階へ向かった。私は、「時計修理はフリではない」「緑色のランプ」「猫のペンダント」と書き留めた。

コレクションはふたつのセクションに分かれており、1500年代から1800年代半ばまでのパテック フィリップ以前のタイムピースは3階に、2階はパテック フィリップのみとなっている。まずは3階から。米ドル色のカーペットに、少し明るい色合いの緑色のシダがプリントされ、微風に揺られているような雰囲気。一番最初に展示されていた機械式クロックは針が1本しかなかったが、より具体的に言うと精度が足りないので1本でいいことを知った。ガイド女史が丁寧にこのシンプルな情報を説明してくれたその瞬間、正直言って、私はそのことが耳に入ってこなかった。時計自体に魅了されてしまったのだ。真鍮にローマ数字と太陽の絵が彫られた、カールスジュニアの「リアリィビッグ・カールバーガー(The Really Big Carl Burger)」ほどの大きさと形をしたその時計に。

私がその時計所有したいと思い続けているあいだ、彼女は事実を語り続けた。ヒゲゼンマイ(これが何かは知っている!)のおかげで時計の精度が上がり分針がついた。これは確かに刺激的だ。 しかし、イギリスの時計職人ヘンリー・ジョーンズによる、この時計の完璧なデザインに比べれば、何のことはない。円形に刻まれたローマ数字が時間を数え、楕円形に刻まれた数字が分を数える。そんな銀色の幻のような時計は、私がこれまで目にしたもののなかで、たちまちトップ5に躍り出たのだ。

次に、ブリッジについて学んだが、ガイド女史によると、この革新的な技術により、時計を薄くすることが可能になったとのことである。ブリッジとは何かもっと具体的に説明されたはずなのだが(私のメモにはBRIDGESと書いてあり、LAPINEと書いてあったが、あとでLépineと知った)、私は時計を薄くできること以上のことは理解できなかった。残念だ。しかし、例えば、ブレゲやフィルズの自動巻きリピーターウォッチ(秒表示付き)のような出来栄えには、うっとりとさせられた。カレンダーとムーンフェイズを搭載し、シンプルなゴールドの巻上げリューズを備え、渋いホワイトフェイスの下には、より繊細で芸術的コンプリケーションがセットされていた。私は今、ムーンフェイズとは何かを知っている。そしてそのデザイン、特に月が小さな顔見せるときなど、本当に素晴らしいと思っている。


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